身近なところで買えるフランスパンは、大別すると二種類ある。
一つは外皮が薄茶色で、押すとへこむほどに柔らかく、スライスしてみると内部が細かい気泡でいっぱいで白っぽく、一口かじるとふわふわしていて、どちらかというと食パンの食感に近いもの。
もう一つは外皮が濃い褐色で、押してもへこまないほど頑強で、スライスしてみると内部に大きな気泡がボコボコとあって、内部の色は白ではなくて黄色っぽく、一口かじるとしっとりしているもの。
前者は昔ながらのベーカリーに多く、後者は今時のブーランジェリーに多い。
昔ながらのベーカリーでは、やはり食パンが看板商品であって、職人の方でも「食パン的方法論」でフランスパンを作ろうとしているのではないか、と思う。
一方でいわゆるブーランジェリーではハードパンが看板商品であり、フランスパンを作る時も当然ハードパン的なアプローチを採る。
僕自身は特にフランスで修行したわけでもなく、僕の店も「フランスっぽいこと」にアイデンティティを見出しているようなブーランジェリーではない。
けど、僕が休日食べ歩きをして、美味しいなーと思うのは後者のパン、フランスで修行してきました!ってアピールする職人が作る、フランス直輸入です!って感じのパンだ。
だから、僕自身はフランスの、本場のバゲットについて直接何かを知っているわけではないけど、東京に数多あるブーランジェリー的なバゲットを食べることによって、間接的に彼の地のバゲットに惹かれ、影響されているというわけだ。
そうやって舌で習得したバゲットを、手と頭を使って再現し、復習し、自分なりのプラスアルファを加えて、今の僕のパンがある。
つまり、僕が「フランスパン」のことを語る時、それはベーカリー的なパンではなく、どちらかと言えばブーランジェリー的なパンのことを指す。
日本人向けに(この表現はヒジョーに胡散臭いが)、アレンジされたフランスパンではなく、
もっともっとリアルな、それこそフランスの人も驚くくらいリアルな、そんなバゲットをいつも夢見ている。