SONKAについて

この仕事に就く前の僕は特にフランスパンが好きなわけではなく、どちらかと言えばあんパンやクリームパン等の菓子パンを好んで食べていました。思うところあってパン職人になることを志し、念願かなってあるレストランに採用していただいた際、僕の配属先はフランスパン製造部門でした。

 

一日に300本以上のフランスパンをほぼ一人で作るという環境の中、フランスパンのことばかり考えて暮らす日々の中で僕が気づいたのは、「フランスパンは美味しい」、というフランス人にとってはごく当たり前の事実でした。日本人がほぼ毎日米を食べるのとおなじように、フランス人もバゲット(フランスパン)をほぼ毎日食べます。米もフランスパンも決してハレの日の特別なものではなく、暮らしの中にさりげなくある、生活の一部なのです。そこにはシンプルであること、という共通点があるように思います。

 

フランスパンの原料は、小麦粉、水、塩、酵母、以上です。砂糖やバターは一切使いません。にも関わらずよく噛むと甘いです。素材の味(特に小麦粉)こそが全てであり、素材の味を「引き出す」技術が必須であり、ゆえに最も難しいパンと言われています。味が薄いから砂糖を足そう、塩を足そう、等という足し算の料理とは遠い境地にある、「引き算の美学」。大げさに言えばそれがフランスパン作りの楽しさでもあります。

 

僕がフランスパンを作るときは国産(北海道産)の小麦粉を使い、僅かな量の酵母でのんびり発酵の過程を見守りつつタイミングを見て専用のオーブンで焼き上げます。国産の小麦粉を使うのは安全面に配慮して、ということもあるにはありますが、それ以上に美味しいからというのが大きな理由です。国産であることに過剰な意味づけをするつもりは全くなく、美味しくなかったらどこの産地だろうと使う気にならないだろうと思います。日本で使われるパン用小麦粉はアメリカ、カナダのものが主で国産のものはまだまだ多くありませんし、仕入れ値も決して安くはありませんが、僕は自分が美味しいと思った原料で、更なる美味しさを追究していきたいと思っています。

 

職人、というと何か大袈裟なことをしているように聞こえますが、実際に仕事をするのは酵母をはじめとした微生物たちです。それらの小さなものたちが活動できるように環境を整えてやるのが職人の主な仕事で、後は皿洗いと掃除くらいのものです。電車で同じ目的地へ向かうのに特急で行くのか各駅停車で行くのかで車窓からの景色も見え方が違ってくるように、発酵の速度によってパンの仕上がりも違ってきます。酵母にのんびり活動してもらうことで、一言では言い表せないほど複雑なうまみが出てくるのです。

 

シンプルな素材でのんびり作ること。これが僕のパン作りの基本です。 お召し上がりの際も、シンプルにのんびり味わっていただけたらとても嬉しいです。

 

Sonka店主敬白